妹から着信があり、出られなかったので後から折り返すと、何やら少し取り込んでいる様子だった。しかたないので夜に改めて話そうと電話を切ると、またしばらくして妹から電話がかかってきた。聞けば親友の友香子のお父さんが亡くなって、お父さんが独り暮らししていたアパートの片づけを、友香子と一緒に手伝ってやっている最中だという。そして俺に聞いてきたのが、10年動かしていないクルマは廃車にするしかないのかということだった。

友香子は小さい頃にお母さんを病気で亡くし、父1人子1人で生きてきた苦労人で、社会人になってからは、父親とも離れて一人暮らしをしていたらしい。父親とは疎遠だったわけではないが、近年はお互い干渉し合わず、距離を保って暮らしていたらしい。そんな中での父親の突然の死で、友香子は悲しむ暇もなく、残ったアパートの片づけや、父親の遺したクルマの処分もしなくてはならないらしい。

10年動かしていないと言ったって、どの程度の状態から動いていないのか、車種はなんなのか、年式と走行距離はどのくらいか。これらの情報を聞かないうちは軽はずみなことは言えない。ただ、友香子は一昨年くらいに、俺の知り合いの業者から手ごろな中古車を購入しているから、父親の遺したクルマはもう乗らないだろうということはわかる。なんとか手を加えて廃車にしない道を選んだとしても、娘が乗らないくらいなら、恐らくよそにもそう高くは売れないだろう。手を加えるための費用を考えると、廃車にするほうが安いくらいになるだろうと予想ができる。

しかし想像の域でしかないが、乗らないのに10年間も維持してきたクルマなら、きっと亡くなったお父さんは、その車に何かしらの思い入れがあったのではないだろうか。そのような背景を想像すると、処分という言葉で簡単に片付けることはできないような気がする。